Pirc Defence


ピルツ ディフェンス。Ufimtsev Defence や Yugoslav Defence と言われることも
ある。Hypermodern openings の1つとされる。スロヴェニアのグランドマスター
Vasja Pirc ( 1907 ~ 1980年 ) の名に因んでいる。

主に 1.e4 に対し ...d6, ...Nf6, ...g6, ...Bg7 とするのが特徴で King's Indian Defence( 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 など )に似ているが、KID では白が c4 としているところが Pirc と異なる。

1.e4 g6 の Modern Defence と関連性が高い。

始めは白に d4, e4 2つのポーンを並べさせておき、後で黒は Bg7 と協力して
...e5 または ...c5 などのカウンターアタックでセンターの黒マスにプレッシャーを
かけようとする。

白のセンターポーン前進、黒のカウンターアタック、いずれもタイミングが重要となる。

初心者 ~ 初級者で 1...d6 としてくる人は少ないが、中級者からは使ってくる人がいるため 1.e4 プレイヤーは対策が必要となる。

hypermodern:ハイパーモダーン。classical style に対するアンチテーゼとして1920年代に起こってきた近代的な戦略。翼から中央への圧力、柔軟性、予防(→prophylaxis)などの新しい考え方を示した。Nimzovitch、Reti、Tartakower、Grunfeld などが代表的プレイヤー。 " チェス用語小辞典(英和)より



1.e4 d6

...d6 で白の e4 → e5 を妨げ ...Nf6 とできるようにする。a3-f8 ラインで Bf8 を
展開しづらくなるが Bf8 は ...g6 の後 ...Bg7 に展開するつもり。

c8-h3 ラインで Bc8 が展開できるようになる。
a4-e8 ラインも開かれるので Bb5 でチェックされる可能性がある。

後で ...e5 や ...c5 とする時、d6 ポーンが支えとなる。 




2.d4

最善手と言われる。白は Semi-Open Games で大抵 d4, e4 2つのポーンセンターの形にすることができる( 1.e4 Nf6 に対して 2.d4 は 2...Nxe4 となるので悪い )。

2.Nc3
白としては 2.d4 で全く問題ないが、黒ならば 2.Nc3 の対策も必要になってくるだろう。2.Nc3 とする白は g3 として Closed Sicilian にしようとしたり、f4 や Bc4 として Sicilian Grand Prix Attack にしようとすることもある。

2.Nc3 に対しては 2...g6 とすることが良い模様。この変化では ...Nf6 とするより
...Nge7 の方が好ましいようだ。




2...Nf6

e4 ポーンを攻撃しながらのナイト展開、白に対応を迫る。

2...g6
Ng8 の展開位置を決めず ...g6 とすることは Modern Defence になる可能性がある。Modern Defence では Ng8 を e7 や h6 に展開することもある。

2...e5
3.dxe5 dxe5 4.Qxd8+ Kxd8 となればキャスリングできなくなった黒は不利な感じがするがクイーンが無くなったため白は油断できない。クイーン交換でクイーンが無くなるとつまらないという人もいるが、クイーンが無くなった queenless middlegame
というのも面白く勉強になる。

手順が 1.d4 d6 2.e4 Nf6 となることもある。




3.Nc3

e4 ポーンを守る自然な方法。白はクイーンサイドのナイトを先に展開させたため
0-0-0 する可能性もある。

3.Bd3
Bd3 で e4 ポーンを守ることもできる。3...Nc6 や 3...e5 とされた場合 4.c3 で
d4 ポーンを守れる。Bd3 で Qd1 → d4 ポーンの利きが遮断されることも気づいて
おこう。

3.Bd3 g6 4.Nf3 Bg7 5.0-0 0-0 6.c3
3.Bd3 e5 4.c3 Nc6 または 4...d5!?

3.f3 とすることもできる。

白は c4 とすることができるため 3.f3 g6 4.c4 Bg7 5.Nc3 となれば King's Indian Defence Sämisch Variation となる。

3.f3 e5 4.d5 または 4.dxe5
3.f3 d5!? 4.e5 Nfd7 5.f4




3...g6

Pirc Defence となる。...g6 は ...Bg7, ...0-0 などとするため。

3...e5 4.Nf3 Nbd7 となれば Philidor's Defence になる。

3...c6 は黒が何をしようとしているのか分かりづらいが 4.Nf3 Bg4 5.Be2 e6
となれば Bad Bishop の Bc8 をポーンチェーン( 斜めにつながった複数のポーン )
の外側に展開させてから ...e6, ...d5 の French Defence のポーンストラクチャーに
しようとしている、侮れない変化。

3...Nbd7 4.f4 e5 5.Nf3 exd4 6.Qxd4 c6


白の主な4手目と変化

4.f4 Bg7 5.Nf3 0-0 または 5...c5 Austrian Attack

4.Nf3 Bg7 5.Be2 Classical Variation

4.Nf3 Bg7 5.h3 0-0 6.Be3 Accelerated Classical

4.Be3 5.Qd2 150 Attack
150 Attack は英国で中級者のプレイヤーによく使われていたことに因んでいる。
英国で 150 の階級は Elo 1800 相当。

4.Be3 後で f3 f3-System  

4.Bg5 Byrne Variation

4.g3 Fianchetto Variation



4.Be3

白はクイーンサイドのナイトとビショップが展開したので 0-0-0 する可能性がある。
Qd2 と協力し Bh6 で黒マスビショップの交換を迫り、黒のキングサイド を弱くさせる狙いがある。

ポーンストラクチャーや他のピース展開位置を決めていないため柔軟性がある。
どちらにキャスリングするか、f2 ポーンを f4 または f3 に進めるかまたはそのままか未定の状態。

4...Ng4 で Be3 を攻撃してくることが考えられるので、そうなった場合の対処法を
覚えておきたい。

4.Be3 で b2 ポーンの守りがなくなることにも気づいておこう。




4...Bg7

キャスリング可能となる。

4...c6
Bf8 の展開を遅らせることで白が Qd2 から Bh6 としてきた時、1手で ...Bxh6 と
できるため...Bg7 から ...Bxh6 とするより1手得する。
...c6 から ...b5 としてクイーンサイド攻めの狙いもある。

4...c6 5.h3 Nbd7( 5...b5?! 6.e5! )6.f4 または 6.Nf3
6.g4!? Archbishop Attack

4...a6?! 5.h3! Bg7( 5...b5?! 6. e5! )6.f4 b5 7.e5

4...Ng4 5.Bg5 h6 6.Bh4 g5 7.Bg3
黒はポーンを進められて有利な感じがするが、ピース交換に至らず黒はキングサイドを弱めたことになる。




5.Qd2

0-0-0 可能となるがそうするかは未定。f3, g4 とすることもまだ可能。

0-0-0 から Be3 → Bh6 と h4 → h5 でキングサイド攻めの狙いがあるが
黒がキャスリングせずクイーンサイドで攻めてくる可能性もあるため、状況に応じて
0-0, h3 としてセンターやクイーンサイドでプレッシャーをかけていく場合もある。

5.f3
5...Ng4 で Be3 を攻撃されることを防げる。後で g4 としてキングサイド攻めするのを
サポートできる。




5...c6

キングをセンターに保ち、クイーンサイドで反撃するための準備。

a5-d8 ラインが開かれるので 6.Bh6 となった場合 6...Bxh6 7.Qxh6 Qa5 で
Nc3 をピンして e4 ポーンにプレッシャーをかけられる。
8.Bd3 c5 9.Nge2 cxd4 10.Nxd4 Qb6!?

5...0-0
自然で悪くない感じがするが白のキングサイド攻めに対して危険をともなうため
黒は適切な理由がある場合に限りキャスリングすべきで自動的に 0-0 するのは
良くないと言われる。

5...Ng4
4...Ng4 は良くなかったが 4...Bg7 後の 5...Ng4 は悪くない。
6.Bg5 h6 7.Bh4 c6 8.h3 または 7...g5 8.Bg3 e5 9.dxe5
6...c5 や 6...f6 も可能。

5...Nc6
Nc6 が d4 ポーンを攻撃しているため ...Ng4 で d4 ポーンを守っている Be3 を
攻撃されるのは好ましくないため 6.f3 で ...Ng4 を防ぐのが良い。




6.Nf3

d4 ポーンを守っているだけでなく ...e5 を妨げている。0-0 の可能性が高まる。

6.f3
...Bg4 や ...Ng4 を防ぎ、後で g4 としてキングサイド攻めができる。
6.f3 に対しては 6...b5, 6...Nbd7, 6...0-0, 6...Qa5 など

6.0-0-0
黒は 6...b5 で 0-0-0 した白に対し攻撃を始められる。6.Nf3 か 6.f3 の方が良い。




6...0-0

無難な手だが白がすぐ Bh6 とすることを許す。黒として始めはこの手を指すとしても
慣れてきたら 6...b5, 6...Bg4, 6...Qa5 などの手を使ってみるのも良いだろう。

6...b5
c4 にポーンがないためこの手が可能。キャスリングを遅らせクイーンサイド攻めの
狙い。6...b5 7.Bd3 0-0 8.h3 Nbd7 9.0-0

6...Bg4
d4 ポーンを守り ...e5 を妨げている Nf3 を攻撃し交換する狙い。
...b5 としてクイーンサイドを弱くすることもない。通常は白が Bd3 としてから ...Bg4 とすることが多い。6...Bg4 7.Be2 0-0 8.h3 Bxf3 9.Bxf3

6...Qa5
e5 を支配し、一時的に白の Bh6 を妨げ( 7.Bh6? Bxh6 8.Qxh6 Nxe4 )、白の 0-0-0 を阻止する。...b5 の手と協力させづらく、白の a2-a4, b2-b4 など攻撃の的にされる
面もある。6...Qa5 7.h3 Nbd7 8.Bd3 e5 9.0-0




7.Bh6

黒マスビショップの交換を迫る。黒マスビショップが交換されれば黒のキングサイドが弱まり白は h2-h4-h5 でキングサイドを攻めやすくなる。

さらに黒は黒マスビショップで e5 を支配できなくなるため ...e5 の反撃も威力が
弱まる。

7.h3
多くの強いプレイヤーがこの手を選ぶ。
7.h3 b5 8.Bd3 Nbd7( 8...b4?! 9.Ne2 )9.0-0 Qc7 10.Ne2!

7.Bd3
7...b5 8.Bh6 となれば 7.Bh6 の変化に transpose
8.h3 とすれば ...Bg4 を防げる。

7.h4!? b5 8.a3 Ng4?! 9.h5 Nxe3 10.Qxe3 Qa5 11.hxg6
8...Nbd7 の方が良い




7...b5

c6 ポーンのサポートがあるためこの手が可能。白が 0-0-0 すればポーン攻撃の
プレッシャーとなる。...b4 から ...Nxe4 の狙いもあるが白は Bd3 で防げる。

7...Bg4 8.Bxg7 Kxg7 9.Ng5! h6 10.h3
10...Bc8 11.Nf3
10...Bh5 11.Nxf7! Rxf7 12.g4

7...Qa5
クイーンが 5th ランクを支配していることが有効に働く。
8.Bxg7 Kxg7 9.h3 Nbd7 10.Bd3 e5 11.0-0

7...Bxh6?!
8.Qxh6 となるのは黒にとって好ましくない。Bxg7 Kxg7 となった方が良い。




8.Bd3

...b4 で e4 ポーンを守っている Nc3 を攻撃されたときのために Bd3 で e4 ポーンを守る。0-0 も可能となる。

8.Be2? b4 や 8.h3? b4 など白は気をつけたい。

8.Bxg7 Kxg7 9.a3 や 9.Bd3 も可能。




8...Bg4

...Bxf3 gxf3 となれば白のキングサイドが弱くなる。黒にとって白マスビショップは
活用しづらいため Bg4 と Nf3 の交換は黒にとって望むところ。

8...Nbd7 9.Bxg7 Kxg7 10.a4




9.a4!

...Bxf3 gxf3 が考えられるため Nf3 を何とかしたくなるが 9.a4! とすることで ...b4 を
誘い 9...b4 10.Ne2 となれば Nc3 をキングサイドへ運ぶテンポを得られる。

白はまだキャスリングしておらず、オープニングを学び始めた段階ではこのような展開は難しいかもしれないが学ぶことはあるだろう。

9.Bxg7 Kxg7 10.Ng5! e5 11.h3
9.0-0-0 e5 10.Ne2 Nbd7 11.dxe5




9...b4

当然考えられる手。Nc3 を追いやり b5 ポーンを前進させられるが前述の通り
9...b4 10.Ne2 となるのは白にとって望むところ。

10.Ne2 で b4 ポーンが Qd2 に攻撃されるが Qd2 は Bh6 を守っている役目があるため Qxb4 を心配する必要はない。

9...bxa4
黒はクイーンサイドが弱くなる( a ファイルが half-open になることが考えられ
孤立ポーンとなった a7 ポーンは弱くなる )。
10.Bxg7 Kxg7 11.Ng1 e5 12.dxe5

9...Bxh6!?
Nc3 → Ne2 を避けられるが白クイーンが h6 にとどまる。
10.Qxh6 Bxf3 11.gxf3 Qa5 12.h4 Nbd7 13.h5

9...Bxf3 10.gxf3 Bxh6 11.Qxh6 bxa4 12.h4




10.Ne2

最も活用させやすい場所へ移す。

10.Na2?  10.Nb1?  10.Nd1?! はナイトの位置が悪くいずれも 10...Bxf3 で
黒が有利になる。




10...a5

b4 ポーンを守り a4 ポーンの前進を妨げられる。

他の候補手も考えられる。

10...Bxh6 11.Qxh6 Bxf3 12.gxf3 Nbd7 13.h4
10...Bxf3 11.gxf3 Nbd7 12.Bxg7
10...Nbd7 11.Bxg7


11.Bxg7 Kxg7 12.e5 などと続く


参考文献

the Pirc in Black and White - James Vigus
attacking with 1 e4 - John Emms
starting out: the pirc / modern - Joe Gallagher
1...d6 move by move - Cyrus Lakdawala
Pirc Defence - Wikipedia
Hypermodernism (chess) - Wikipedia

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