Alekhine's Defence


アレヒン ディフェンス( 関連動画では Alekhine's アラカインズと聞こえる )。
後に世界チャンピオン( 1927 ~ 1935年、1937 ~ 1946年 )となる
Alexander Alekhine ( 1892 ~ 1946年 ) が 1921年 ブダペスト( ハンガリーの首都 )のトーナメントでこの手を使い脚光を浴びるようになった。

hypermodern chess opening の1つ。1.e4 に対してポーンではなくナイトを展開し
白のポーン突きを誘う。白はポーンを進めてセンターを支配、スペースを得られるが
黒は後で白のポーンを攻撃、崩しにかかる。


主な変化

Modern Variation
2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

Exchange Variation
2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.c4 Nb6 5.exd6

Four Pawns Attack
2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.c4 Nb6 5.f4

Balogh Variation
2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Bc4

Chase Variation
2.e5 Nd5 3.c4 Nb6 4.c5 Nd5

Two Knights Variation
2.e5 Nd5 3.Nc3


1.e4 Nf6


Scandinavian Defence では 1...d5 で e4 ポーンを攻撃し 2.exd5 を誘ったが
Alekhine's Defence では Nf6 で e4 ポーンを攻撃し、白に対応を迫る。

白は 2.Nc3 や 2.d3 で e4 ポーンを守ることもできるが、黒は 2.e5 を誘っている。



2.e5


同じ駒を再度動かすことになるが、Nf6 をキングサイドの守備位置から追い払うことができる。

ポーンを進めてスペースを得られる一方、e5 ポーンは ...d6 や ...Nc6 により攻撃を受けることになる。

2.Nc3 や 2.d3 で e4 ポーンを守る手など、白2手目変化については後述の 補足1 で扱う。



2...Nd5


センターにあるピースは活動性が高まるが、序盤早々の段階では攻撃を受けやすい。3.c4 とされれば再びナイトを動かさねばならないし、3...Nb6 4.c5 となればさらにナイトを動かすことになる。

しかしこれは黒も承知の上で、白がポーンばかり進めていれば、それらのポーンに反撃しやすくなる。

2...Ng8
GM Joel Benjamin の故郷に因み Brooklyn Defense と呼ばれている。黒は3手の
ハンディキャップを負うと言われるが、実際には白が少し良いぐらいなので油断できない。2...Ng8 3.d4 d6 4.Nf3 Bg4 5.h3 Bh5 6.Be2 e6 7.0-0 d5

2...Ne4?
悪手とされており黒が使ってくることは滅多にないだろうが、定跡を見る限りでは白にとって厄介な感じがする。
2...Ne4? 3.d4 f6 4.Qh5+ g6 5.Qh4 d5 6.Bd3( 3...e6 4.Nh3 h6 5.Qg4 d5 6.f3 h5 7.Qf4 g5 8.Nxg5 Nxg5 9.Qxg5 Be7 10.Qg7 )



3.d4


メインライン。e5 ポーンを守りつつセンターを支配する。Bc1 が展開可能になる。

3.Nc3
悪くない手。3...Nxc3 で白はダブルポーンができるが、4.dxc3 では Bc1 とクイーンが展開できるようになり好形。
4.bxc3 では 4...d6 5.f4 g6 6.d4 Bg7 7.Nf3 などと続き、白はセンターを支配して
キングサイド攻めを狙う。

Alekhine は 3.Nc3 に対して 3...e6 としていた。

黒ならば下記のマイナー変化への対応も必要になるだろう。
3.Qf3、 3.b3、 3.g3、 3.Nf3、 3.Bc4



3...d6


センターを支配している e5 ポーンに早速反撃し、白に対応を迫る。Bc8 が展開可能となる。白としてどうすべきか迷う局面。

主な変化は3つ

4.c4 Nb6 5.f4 Four Pawns Attack
白は4つのポーンでセンターを支配しスペースを得て強力な感じだが、sharp な変化となる。

4.c4 Nb6 5.exd6 Exchange Variation
d6 ポーンに攻撃されている e5 ポーンを守るのではなく、自ら交換する変化。


4.Nf3


Modern Variation。e5 ポーンを保ちキングサイドのスペースを活用していこうとするのが1つの狙い。

白 e5 ポーンがあると黒は Nf6 とできないため、4...dxe5 として邪魔な e5 ポーンを消すこともできる。5.dxe5 とすると 5...Bg4 で白 e5 ポーンが弱くなるため  白は 5.Nxe5 とすることが多い。しかし黒としては 5.dxe5 にも対応できるようにしておこう。



4...dxe5


5.Nxe5 となれば白 e5 ポーンが無くなるため f6 にナイトを運ぶことが可能になる。また、...g6、...Bg7 として a1-h8 ラインを活用できる。

白 e5 ポーンがあるうちはこのポーンが邪魔となるので黒は ...g6、...Bg7 を避けようとする。

5.Nxe5 でナイトがセンターの好位置にくるが、黒のアイデアは ...Nd7 で Ne5 を f3 に後退させ効率よく Nb8 を展開すること。...Nd7 に対し白が Nxd7 とすれば良い働きをするナイトを自ら放棄することになるし、...Nxe5, dxe5 となれば白 e5 ポーンは狙われやすくなるため、白としては Ne5 を交換するより f3 へ後退させた方が良い。

黒4手目変化については 補足2 で扱う。



5.Nxe5


5.dxe5 Bg4 となるのを避けるため 5.Nxe5 とする。

5.dxe5
5...Bg4 で白 e5 ポーンは狙われやすくなるため、よく知らずに 5.dxe5 としてくるプレイヤーに対して黒は有利を得られるだろうが、5.dxe5 をよく研究しているプレイヤーもいるため、黒は油断できない。

5.dxe5 Bg4
6.Be2 e6 または 6...Nc6 も良い
6.c4 Nb4 7.Qxd8+ Kxd8 8.Na3 e6 または 8.Bxf3
6.Bc4 e6 7.Nc3 Bb4
6.h3 Bxf3 7.Qxf3 e6 8.Qg3 Nd7



5...c6


Nd5 を守ることで白が 6.Nxf7 とすることを防ぐ( 詳しくは 5...Nd7?! 6.Nxf7 を参照 )。

...Nd7 が可能になるだけでなく、Nd5 を c7 に後退させることも可能となる。

短所はピース展開が少し遅れること。

5...g6 Kengis Variation
白 e5 ポーンがなくなったため、...Bg7 として a1-h8 ラインにプレッシャーをかける。
6.Bc4 c6 7.0-0 Bg7 8.Re1 0-0 9.Bb3
6.Bc4 Be6 7.0-0 Bg7 8.Re1 0-0 9.Nd2
6.Bc4 Bg7?? 7.Nxf7 Kxf7 8.Qf3+
6.c4、6.Qf3 ( sharp )、6.Be2、6.g3 の変化もある

5...Nd7?!
6.Nxf7 Kxf7 7Qh5+ Ke6 8.Qg4+ Kf7 9.Qh5+ Ke6 はドローになる( 10.Qg4+ Kd6? だと 11.c4 以降白有利 )。
8.g3 や 8.c4、6.Nf3 などの変化もあるため、黒は 5...Nd7?! を避けた方が良さそう。



6.Be2


一見消極的な位置に思えるが、両サイドへの利きが良く、後で c4 とすることが可能 ( 6.c4 は 6...Nb4! とできる。...c6 としているため、白 に Qa4+ とされない )。

黒の a8-h1 ラインが弱くなれば後で Bf3 とする場合も。

Be2 の利きがあるため g4 とする可能性も。  

6.Bc4 Nd7 7.Nf3 N7f6 8.h3 Bf5 9.0-0 e6
6.Bd3 Nd7 7.Nxd7 Bxd7 8.0-0 g6 9.Nd2 Bg7



6...Bf5


...Nd7 で Bc8 の展開が妨げられる前に展開させておく。

6...Nd7 7.Nf3 g6 8.c4 Nc7 9.Nc3 Bg7 10.0-0 0-0
6...g6 7.0-0 Bg7 8.c4 Nc7 9.Be3 0-0 10.f4 Nd7



7.0-0


黒に 7...Nd7 とされるが、7.g4 の sharp な変化を避けたい場合は 7.0-0 の方が無難。

7.g4 Be6 8.f4 f6 9.Nd3 Bf7 10.0-0 Na6 11.Nc3 Nxc3



7...Nd7


好位置の Ne5 を攻撃し対応を迫る。黒はキングサイドの展開が遅れているが焦る必要はない。



8.Nf3


センターから後退することになるが Nf3 も良い位置なので問題ない。8.Nxd7?! とするのは 8...Qxd7 で黒の展開を助けるだけ。

8.Bg4
白マスビショップの交換は黒にとって都合が良い。
8.Bg4 Bxg4 9.Qxg4 e6 10.Rd1 Nxe5



8...e6


Bc8 をポーンチェーンの外側に展開させたので今度は Bf8 が展開できるようにする。

黒が c6, e6 としているポーンストラクチャーは Caro-Kann Defence や Scandinavian Defence などでも見られる solid なポーンストラクチャー。

8...h6 9.c4 Nb4
10.a3 Nc2 11.Ra2 Nxd4 12.Qxd4 Bxb1
10.Nc3 Nc2 11.Rb1 Nb4 12.Be3 Bxb1 13.Qxb1



9.c4!


ここでセンターの好位置にいる Nd5 を追いやる。白はキャスリングも済んでおり、絶好のタイミングで c4 とした。

b5 と d5 を c4 ポーンで支配することは白にとって有効で、その後 Nb1 を c3 の好位置に展開できる。

9.a3 Bd6 10.Re1 0-0 11.c4 Nf4



9...N5f6


安全かつ好位置に後退。

9...Nb4 10.a3
10...Nc2 11.Ra2 Nxd4 12.Qxd4 Bxb1
10...Na6 11.Nc3 Be7 12.d5 cxd5

9...N5b6 10.Nc3 Be7 11.Bf4 0-0



10.Nc3


自然かつ有効なピース展開。

有効に働いている 黒 Bf5 を 10.Nh4 で攻撃した場合、黒は 10...Bg6 と 10...Bxb1 
2つの選択肢がある。10...Bg6 11.Nxg6 hxg6 となると、黒はビショップペアでなくなるものの、ハーフオープン h ファイルが白のキングサイドに大きなプレッシャーとなる。10...Bxb1 では c3 に展開すると有効な働きをする Nb1 を消せる。

10.Bf4 Qb6 11.Qc1 Be7 12.Nc3 h6



10...Bd6


展開していなかったマイナーピースを好位置に展開。Qc7 と協力して白のキングサイド攻めが考えられる。a3 - b4 - c5 も支配している。0-0 が可能となる。

11.c5?! で Bd6 を追いやれるが白にとって d5 が弱くなってしまう。

10...Qc7 11.Re1 Bd6 12.h3 0-0
10...Ne4 11.Bf4 Bd6 12.Bxd6 Nxd6


11.Nh4 Bg6 12.g3 0-0 などと続く

参考ゲーム ( chessgames.com )
http://www.chessgames.com/perl/chess.pl?node=7048196


補足1 白2手目変化

2.Nc3


2.e5 に次いで指される手。Alekhine's Defence を使う黒のプレイヤーは対策が必要になる。

2...e5 とすれば Vienna Game に、2...e5 3.Nf3 Nc6 となれば Four Knights Game に transpose 。

2...d5、2...d6、2...e6 などの変化もあり、白として対応が幅広くなるため、2.e5 の方が無難。



2.d3


d3 ポーンが Bf1 の展開を妨げてしまい、2...e5、2...c5、2...d5、2...d6 など黒の変化が多くあるため、白としてはこのような手は避けた方が良いだろう。

実際には 2.d3 を使ってくるプレイヤーもいるので、黒としては対応が必要。



2.Bc4


アイデアは 2...Nxe4 3.Bxf7+ Kxf7 4.Qh5+ で 4...Kg8 または 4...g6 に対し 5.Qd5+ でナイトを得ること。しかし黒はキャスリングできなくなってもビショップペアを保っており、黒の方が有利のようだ。

4...Kg8 5.Qd5+ e6 6.Qxe4 d5 7.Qe2 c5
4...g6 5.Qd5+ e6 6.Qxe4 d5 7.Qf4+ Kg8

黒としては 2...d5 や 2...e6 から 3...d5 の選択肢もある。2...e5 では  Bishop's Opening に transpose するため黒にとって望むものではないだろう。



2.f3


まれではあるが、黒番で Latvian Gambit( 1.e4 e5 2.Nf3 f5 ) を使うプレイヤーが同じような狙いで指してくる場合がある。

2...e5 3.f4!? Nxe4 4.Qf3 d5 5.d3 Nc5 6.fxe5 Nc6 7.Qg3 f6
2...d6 3.d4 g6 4.Nc3 ならば Pirc Defence に transpose


補足2 黒4手目変化

4...Bg4


...e6 で展開が妨げられる前に Bc8 を展開させる。Bc8 は白にとって利点の e5 ポーンを直接攻撃することはできないが、e5 ポーンを守っている Nf3 と交換すれば間接的に e5 ポーンを弱められる。

...Bxf3 となれば白は e5 ポーンが弱くなるがスペースとビショップペアの利点がある。

4...Bg4 は 1970年代まで最もよく指されていたが、4...g6 や 4...dxe5 が好まれるようになり人気は減少した。

4...Bg4 5.Be2
5...e6 6.c4 Nb6 7.Nc3 Be7 8.0-0 0-0
5...e6 6.0-0 Be7 7.c4 Nb6 8.Nc3 0-0
5...e6 6.h3 Bh5 7.c4 Nb6 8.exd6 cxd6
5...c6 6.0-0 Bxf3 7.Bxf3 dxe5 8.dxe5 e6
5...c6 6.0-0 dxe5 7.Nxe5 Bxe2 8.Qxe2 e6
5...Bxf3?! 6.Bxf3 dxe5? 7.c4 そして 8.Bxb7



4...g6


Alburt Variation( GM Lev Alburt に因んでいる )。
...Bg7 として e5 ポーンにプレッシャーをかける狙いで sharp な変化。白はある程度対策をしておきたい。

5.Bc4 Nb6 6.Bb3 Bg7
7.Ng5 e6 8.Qf3 Qe7
7.a4 dxe5 8.a5 N6d7 9.Bxf7+
7.Qe2 Nc6 8.0-0 0-0

5.Ng5 c6 ( Nd5 を守っておく ) 6.Qf3 f6
5.Ng5 Bg7?? 6.Qf3 Be6 7.c4 Nb4 8.Qb3

5.c4 Nb6 6.exd6 なら Exchange Variation に transpose



4...Nb6


攻撃を受けてないのに自らセンターの好位置からナイトを後退させるのは、相手の定跡を外そうとする狙い。

5.a4、5.Be2、5.Bd3、5.Nc3 など白の変化はいろいろ。

5.a4 a5 6.Bb5+ c6 は Bb5+ で ...c6 を誘い黒のクイーンサイドを弱くさせる狙いがある



4...c6


4...dxe5 5.Nxe5 c6 変化の原型で、消極的だが solid な手。
...c6 で c7 が空くため、5.c4 とされた時 5...Nc7 とできる。

5.c4 Nc7 の後は 6.exd6、6.Nc3、6.h3、6.Be2 などの変化がある。

5.Be2 Bg4 または 5...dxe5




4...Nc6



スペシャリストが使う手。

5.c4 Nb6 6.e6!? fxe6 ( 6...Bxe6? 7.d5 ) 7.Nc3
5.c4 Nb6 6.exd6 exd6 7.Be2 Be7 8.0-0 0-0



4...Bf5


5.c4?! とすると 5...Nb4 から ...Nc2+ を狙われるため 6.Na3 とするが、Nb1 が望まない場所( a3 )へ展開される。

5.Bd3 ですぐにビショップ交換を迫るか、5.Nh4 などが良い。

5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 Nc6 7.0-0
5.Nh4 Bg6? 6.Nxg6 hxg6 7.c4 Nb6 8.e6


参考文献

starting out: alekhine's defence - John Cox
Play the Alekhine - Valentin Bogdanov
Alekhine alert! - Timothy Taylor
Alekhine's Defence - Wikipedia
KENILWORTH CHESS CLUB - The Brooklyn Defense
Chess handicap - Wikipedia

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