Chigorin Defence


チゴウリン ディフェンス。ロシアの GM Mikhail Ivanovich Chigorin ( 1850 ~ 1908年 )にちなんでいる。1.d4 d5 2.c4 の Queen's Gambit に一風変わった手で応じる。

変化によって面白い展開となるが、黒プレイヤーにとって変化が多く定跡を覚えづらかったり、ミドルゲームからの戦い方が難しかったりするので、 1.d4 対策として黒プレイヤーがこの定跡を採用するのは初めは避けた方が良いだろう。


主な変化

3.Nc3 Nf6 または 3...dxc4
3.Nf3 Bg4
3.cxd5 Qxd5 4.e3 または 4.Nf3


1.d4 d5 2.c4 Nc6



クイーンサイドのナイトを先に展開すれば 0-0-0 しやすくなる。1...d5 により Bc8 が
展開可能となっており、黒はピースを積極的に活用しようとする。

d5 ポーンを c6 や e6 で守らなければ 3.cxd5 とされて d5 にポーンがなくなるが 3...Qxd5 でクイーンを展開でき、2重に d4 ポーンを攻撃しているため白は 4.Nc3 とできない( d4 ポーンを失うので )。

Nc6 があるかぎり c6 で d5 ポーンを守ったり、c7 → c5 とできないが、Nc6 が d4、e5 を支配しているので ...e5 で反撃する狙いがある。


3.Nc3


センターに影響を及ぼす好位置にナイトを展開。 3.cxd5 としなければ 3.Nc3 dxc4 とされる可能性があるがその場合 4.Nf3 で柔軟に対応できる。

d5 ポーンを2重攻撃し黒に対応を迫まる。白は 3...dxc4 でテンションを開放するか 3...Nf6 とするか。 

キャスリングを急がないのが 1.d4 d5 Closed Game の特徴の1つで慣れないうちは違和感を感じたり、難しく感じるかも知れないが 1.e4 e5 の Open Game とは異なることを学べるだろう。

その他の白3手目変化は後述の補足にて。


3...Nf6


2重攻撃されている d5 に対応するだけでなく e2 → e4 を防ぐ。白に 3....Bg5 とされる可能性があるが 4...Ne4 で対応できる。

3...e6 は Bc8 の展開を妨げ、ピースを積極的に活用しようとする狙いに反する。

3...e5 とするのは時期尚早のようで 3...e5 4.cxd5 Nxd4 5.e3 Nf5 は白好形。
3...e5 4.cxd5 exd4 5.dxc6 dxc3 6.Qxd8+ Kxd8 はオープンな局面となりキャスリングできなくなった黒は厳しい感じ。
3...e5 に対し 4.dxe5 とするのは 4...d4 5.Nd5 Nge7 で黒が良くなるようなので白は気をつけたい。

3...dxc4
Morozevich オススメの手。すぐに 4.d5 とされたり、4.Nf3 Nf6 から 5.Bg5 5.e3 5.e4 などいろんな変化がある。


4.Nf3


d4 ポーンを守りつつ e7 → e5 を防ぐ。e3 にポーンがないため Bc1 を f4 や g5 に
展開する可能性を残している。

4.Bg5
d5 ポーンが2重攻撃されているため黒にとって厄介な感じだが 4...Ne4!? という手がある。
4.Bg5 Ne4!? 5.Nxe4 dxe4 6.d5 e6! 7.Bxd8 Bb4+ ( 7.dxc6? Qxg5 8.Qa4 Rb8 )
4.Bg5 Ne4!? 5.cxd5 Nxc3 ( 5...Nxg5 ではなく! )
4.Bg5 Ne4!? 5.Bh4 Nxc3!? 6.bxc3 dxc4

4.cxd5 Nxd4 5.e4 Nxc3 6.bxc3 e5 7.d5 Nb8


4...dxc4


ここで ...dxc4 とすることになる。というのも 4...e6 では Bc8 の展開を妨げてしまうし、4...Bg4? は 5.cxd5 Nxd5 6.e4 Nxc3 7.bxc3 e5 8.d5 Nb8 9.Qa4+! 以降 白が好形となる。

...dxc4 により白は 5.e4 とできるようになるが今度は 5...Bg4 が機能する。

d ファイルがハーフオープンファイルになったことにも気づいておきたい。
ハーフオープンファイル や オープンファイルができた場合は将来的にそれを活用
することと、相手に活用されないよう気をつけよう。参考記事 ( ← リンク )

4...Bf5 5.cxd5 Nxd5 6.Qb3 Nxc3 7.bxc3 Qd7 8.Qxb7
( 7...Rb8?? 8.d5 で黒はナイトを失う )

いずれにしても 4....dxc4 の後、白5手目変化が多く、上級者やマスターレベルでなければ対応が難しいと思われる。


5.e4


d5 に黒ポーンがなくなったので すかさずセンターの好位置にポーンを進める。
e2 → e4 とすることで Bxc4 が可能となり、Bc1 の展開も妨げておらず好形。
ただし e3 で d4 ポーンを守れなくなったので 5...Bg4 とされたとき d4 ポーンを守る
対応を考えておかねばならない。

5.Qa4 Nd5!?( 5...Bd7 は消極的 ) 6.Qxc4 Nb6 または 6.e4 Nb6

5.e3 e5! 6.Nxe5 Nxe5 7.dxe5 Qxd1+ 8.Nxd1 Bb4+
5.e3 e5! 6.d5 Ne7 7.Bxc4 Ng6

5.d5 Na5 6.e4 c6 7.Ne5 e6
5.d5 Na5 6.Qa4+ c6 7.b4 b5 8.Qxa5 Qxa5


5...Bg4


ピースの積極的活用。Nf3 をピンすることにより白 d4 ポーンをどう守るか白に問う。6.d5 とされても 6...Ne5 とすることが可能。

Bc8 を展開することで b7 ポーンの守りが外れることも意識しておきたい。


6.Be3


白もビショップを展開し d4 ポーンを守る。先ほどと同じように b2 ポーンの守りが外れる影響を考えた上で Be3 としたい。

6.d5 Ne5 7.Bf4 Nfd7 8.Bxe5 Nxe5 など


6...e6


Bc8 を展開しているのでやっと ...e6 とでき d5 を支配、Bf8 が展開可能となる。


7.Bxc4


自然なタイミングで c4 ポーンを取っておき 0-0 可能となる。c ファイルがハーフオープンファイルとなる。

7.Qa4 で Nc6 をピンする方が黒とっては厄介かも。
7.Qa4 Nd7 8.Qxc4 Nb6
7.Qa4 Bxf3 8.gxf3 Nd7


7...Bb4


Nc3 がピンされているため 8...Nxe4 の狙いと、 8...Bxc3 から 9...Nxe4 の狙いもあり白は対応を迫られる。また、...Bxc3 bxc3 となると c3 は Backward ポーン、a7 は
孤立ポーンとなる。

これに対し白は 8.Qc2 または 8.Qd3 で e4 ポーンを守れる。8.Bd3 でも e4 ポーンを守れるが同じ駒を動かすより Qd1 を展開して e4 ポーンを守らせた方が効率が
良い。

7...Be7 と消極的な手をさせば白に主導権を握られるだろう。


8.Qc2


e4 ポーンを守れる一方 ...Bxf3 とされると白はダブルポーンができ 0-0 しづらくなる。Qc2 だと Ra1 → Rd1 とした時 Qd8 に対してプレッシャーをかけられる。

8...Bxc3+ 9.bxc3 となると白は c3 Backward ポーン a2 孤立ポーンができるが
ビショップペア、センター好形、スペースで勝っている、などにより白が良いだろう。

8.Qd3
Bc4 が d3 や e2 に後退するのを妨げる面がある。
8.Qd3 0-0 この後は 9.Nd2 9.Bb5!? 9.a3 9.Ne5 など

8.d5 exd5 9.exd5 Bxc3+ 10.bxc3 Ne7 または 10...Ne5!?


8...0-0


マイナーピースを全て展開し、脅威もないので白より先にキャスリング。


9.Rd1


d4 ポーンを守りつつ d ファイルでルークを活用する。

9.0-0?? 白は絶対避けなければならない手。9...Bxf3 10.gxf3 でダブルポーンができ、キング周辺の守りが弱くなるだけでなく 10...Nxd4 でポーン1つ失う。

9.0-0-0 Bxc3 10.bxc3 Qe7! 11.h3 Bxf3 12.gxf3 Rb8!


9...Qe7!?


ハーフオープン d ファイル で ルークを活用できるようにする。

9...Bxf3 10.gxf3 Nh5 11.e5 Ne7 12.0-0 c6


10.Be2


...Bxf3 からダブルポーンができることを防ぎ 0-0 しやすくなる。

キャスリングを済ましている黒に対して白は慎重な指し手を求められる。
Nc3、Nf3 両方とも黒ビショップにピンされている状態に気をつけなければならない
のと、センターを支配し良い働きをしている d4 と e4 ポーンを無闇に交換すべきでない。

10.Bb5 e5! 11.Bxc6 bxc6 12.dxe5 Nd7 13.a3 Ba5


10...e5!?


11.d5 で白好形になりそうだが 11...Nd4! から黒はポーン1つ失ってもマイナーピース交換を誘い、良い働きをしている白のマイナーピースを消滅させ局面打開をはかる。

10...Rad8!? 11.0-0 Ba5 12.Na4 Bb6


11.d5


自然な応手。11.dxe5 で交換してしまうより 11.d5 でセンターポーンを保つ。
しかし黒は意外な手を指してくる・・・

11.dxe5 と 11.Nxe5 は、いずれも白に利をもたらさない。
11.dxe5 Nxe5 12.Nxe5 Bxe2 13.Kxe2 Qxe5 14.f3 Rad8
11.Nxe5 Nxe5 12.dxe5 Bxe2 13.exf6 Bxd1 14.fxe7 Bxc2


11...Nd4!


ポーン1つ失うことになるが Be2 と Qc2 を同時攻撃することでマイナーピース交換を強いる。

12.Nxd4 exd4 13.Rxd4 Bxe2 14.Kxe2 Bc5 15.Rd2 Bxe3 16.Kxe3 Ng4+ 17.Ke2 Qg5 などと続く( 下図 )




ポーン1つ多いため単純化したいが容易ではない
f3 で e4 ポーンを守りたいが e3 のマスが弱くなる
黒よりもキングがセンターに近いが、黒クイーンがあるうちはキングの安全性に気をつけなければならない
h3 で Ng4 を追い払っても好位置の Ne5 が厄介
Rh1 の活用 など


ポーン1つ少ないため不利となる単純化を避けたい
...f5 で Rf8 を活用する
狙われやすい c7 ポーン をどう守るか
Ra8 の活用 など

ここからどう戦っていくか難しいが、マスターのゲームに学んだり、チェスソフトの分析を見たり、何よりも自分なりに考えてみよう。


補足 白3手目変化

3.Nf3



d4 ポーンを守り ...e5 を妨げ、次に cxd5 とする狙い。
黒は 3...e6 では Nc6 を活用しづらく、3...dxc4 とすると 4.d5 で Nc6 が追いやられる。3...Nf6 では 4.cxd5 Nxd5 5.e4 または 4...Qxd5 5.Nc3 でいずれも良くない。
よって 3...Bg4 から ...Bxf3 を狙う。

良い働きをしている Nf3 を消してダブルポーンを作らせることは戦略的に面白いが、チェスの戦略についてある程度学んでなければ、序盤早々に自分のビショップと相手のナイトを交換することは中盤以降 厳しい戦いを強いられるだろう。

3...Bg4
4.Nc3 e6 5.cxd5 exd5 6.Bf4 Bxf3
4.cxd5 Bxf3 5.gxf3 Qxd5 6.e3 e5

下記はマイナー変化だがどのようになるか興味深い。
4.e3 e6 5.Nc3 Nf6 6.h3 Bh5
4.Qa4 Bxf3 5.gxf3 e6 6.Nc3 Bb4
4.Bf4 e6 5.e3 Bb4+ 6.Nc3 Nf6
4.Ne5 Nxe5 5.dxe5 dxc4 6.Qa4+ Qd7
4.Qb3? Bxf3 5.Qxf3 Nxd4 6.Qd3 dxc4


3.cxd5


白がいつもこの手を指してくれれば黒は対応しやすいが、3.cxd5 としてくるのは意外と少ないだろう。何故なら 3...Qxd5 で黒はクイーンをセンターに展開でき、その後 白は 4.Nc3 とする訳にはいかず、4.e3 か 4.Nf3 を強いられ、さらに 4...e5 とされると 5.Nc3 としても 5...Bb4 とされるのは白にとって面白くないからかも知れない。
しかしその変化では 黒が Bxc3 としてビショップペアを放棄した後は戦略的な対応が必要となってくるため、黒が有利を得るのは容易ではないだろう。

3...Qxd5
4.e3 e5 5.Nc3 Bb4 6.Bd2 Bxc3 7.bxc3 Nf6
4.Nf3 e5 5.Nc3 Bb4 6.Bd2 Bxc3 7.Bxc3 e4 8.Ne5 e3!?


3.e3


d4 ポーンを守り、悪くない手だが黒に 3...e5 とする機会を与える。
e3 ポーンが Bc1 の展開を妨げているが 1.d4 d5 の Closed Game ではピース展開やキャスリングを急ぐ必要はなく、適切なタイミングで e3 → e4 ポーンブレイクの狙いがあるので、それほど気にしなくて良いだろう。ただし不要な手を多く指せばピース展開で遅れをとる可能性もあるので気をつけよう

黒としては 3...e5 とする機会を忘れないようにしたい。

3...e5 4.cxd5 Qxd4 5.Nc3 Bb4 は 3.cxd5 の変化に transpose しやすい。

3...e5 4.dxe5 には 4...d4 とすることを忘れないようにしたい・・・
5.a3 a5 6.Nf3 Bc5 7.exd4 Bxd4
5.exd4 Qxd4 6.Qxd4 Nxd4 7.Bd3 Bg4
5.Nf3 Bb4+ 6.Bd2 dxe3 7.fxe3 Nh6!?


補足2 白2手目変化


2.Nf3


白が何の定跡を使おうとしているのかこの時点では分からないが 2.Nf3 とすることで白は 2.c4 e5 の Albin Countergambit を避けられる。

Chigorin Defence を使うプレイヤーは 2.Nf3 にどう対応したらいいか問われる。 2...Nc6 とすることで問題ないが、3.e3 3.g3 3.Bf4 3.Bg5 など変化が多くなり
黒プレイヤーにとって厄介だろう。
基本的には Nc6 を活用するために ...e5 とできるよう ...Bg4 で Nf3 を攻撃したり、Bc8 を g4 か f5 に展開してから ...e6 とする。

2...Nc6
3.e3 Bg4 4.Bb5!? e6 5.Bxc6+ bxc6 6.c4 Bxf3 7.Qxf3 Bb4+
3.g3 Bg4 4.Bg2 e6 5.0-0 Nf6 6.c4 Bd6 7.Nc3 0-0
3.Bf4 Bg4 4.e3 e6 5.c4 Bb4+ 6.Nc3 Nf6 7.Rc1 Ne4
3.Bg5 f6! 4.Bf4 Bg4 5.Nbd2 Nxd4! 6.Nxd4 e5
3.Bg5 f6! 4.Bh4 Nh6! 5.e3 Nf5 6.Bg3 h5
3.h3 Bf5 4.Bf4 e6 5.e3 Bd6 6.Bxd6 Qxd6
など


2.Bf4


1.d4 から白が2手目または3手目に Bf4 としてくるのは London System の可能性が高い。 e2 → e3 とする前に Bc1 を f4 に展開しておき、その後 e3 と c3 ポーンで d4 ポーンを守りセンターを支配し、その後 黒のキングサイドを攻める狙いがある。

ここで黒が 2...Nc6?! とすると 3.e3 で London System を使おうとする白に都合が
良くなるため、Chigorin player であれば 2...Bg4! を使ってみるのも1つの手。

2...Bg4!
3.c4 Nc6 4.f3 Bh5 5.cxd5 Qxd5 6.e3 0-0-0 7.Nc3 Qa5
3.f3 Bh5 4.e3 e6 5.Bd3 Nf6 6.Bg3 Be7
3.Nf3 Nc6 は 1.d4 d5 2.Nf3 Nc6 3.Bf4 Bg4 の変化に transpose


豆知識
1.d4 d5 2.Nf3 と 1.d4 d5 2.Bf4 は Queen's Pawn Game の一種。
Queen's Pawn Game は 1.d4 で始まるオープニングのことだが、1.d4 d5 2.c4 の Queen's Gambit 以外の変化を言い表すときや 1.d4 に対して黒が 1...d5 、1...Nf6 以外の手を指す時に使われる名前。


参考文献

The Chigorin Defence According to Morozevich - Alexander Morozevich and Vladimir Barsky
play 1...Nc6! - Christoph Wisnewski
Chigorin Defense - Wikipedia

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